甲斐 英幸 さん
「Child First 子ども最優先の社会を」
子ども虐待防止日本一周マラソンランナー甲斐英幸さんと「子どもの虐待防止について考える勉強会」
子ども虐待防止を訴えるため、日本一周マラソンに挑戦している甲斐英幸さん。
全国各地で講演をしながらランニングをしている甲斐さんを応援しようと、山形県子育て推進部を中心に「児童虐待防止ランを支援する山形の会」が組織されました。
「やまがたイグメン共和国」建国のきっかけとなる講演をしてくださった安藤哲也さんの活動を通して“つながった”甲斐さんのチャレンジの支援。
「やまがたイグメン共和国」大統領の呼びかけで、山形でもぜひお話を聴きたいと8月29日、甲斐さんの宿泊地となった天童にて勉強会が開かれました。
甲斐さんは7月29日、例年に無い量の降雨が続く天童市に入られました。
5月5日の宮崎県庁前のスタートより86日目、走破された距離は約2,500キロ。全行程のおよそ3分の1の段階、ほぼ予定通りとのお話です。
こんがりと日焼けした肌に優しそうな笑顔が印象的な甲斐さんのお話は、今回のチャレンジのきっかけから始まりました。
お話の終わりに意見交換の時間を設けていただき、参加者それぞれの立場での意見が交わされました。
一つ一つの質問に丁寧に熱くお答えくださった甲斐さんに、参加者の応援の気持ちとしてカンパが手渡されました。プレゼンターは、「やまがたイグメン共和国」五十嵐大統領です。
「マラソンに関しては、7年前から出勤前に1時間くらい走っているだけなんです。」そう語る甲斐さんの姿を、参加者の一番後ろで見守る「パートナー」の奥様の穏やかな佇まいに絆の強さを感じ、いつか私も甲斐さんご夫婦のようなパートナー同士になれるよう信頼関係を築いていきたい、と思いました。
お話の内容を、以下にまとめます。ぜひご一読いただき、「子どもが安心して育つことのできる社会を目指して」私たち自身ができることを、考えていただきたいと思います。
↓甲斐さんのチャレンジの様子は、こちらのFacebookページでご覧いただくことができます。
https://www.facebook.com/kaisan.fight
宮崎県職員として、17年前から児童虐待防止政策に携わってきた甲斐さん。
行政の中ではできることが限られていると感じ、12年前にNPOを立ち上げ、民間の立場としても活動して来られました。
活動を通して、子ども虐待防止について取り組む世界的な組織である「ISPCAN(イスプカン,International Society for Prevention of Child Abuse and Neglect)」の第20回大会が、2014年9月に名古屋市で開催されることを知りました。
各国の子ども虐待についての専門家が一堂に会するこの大会。子ども虐待防止の政策に携わる中で、日本の子ども虐待をめぐる法整備をはじめとする現状を先進国の中で「遅れている」と感じていた甲斐さんは、ホスト国としての状況に危機感を抱き、「今行動しなくては来年の開催に間に合わない。何か、自分にできることはないか?」と考えたと言います。
そこで、子ども虐待を取り巻く現状や制度改正の必要性を多くの人々に知ってもらい全国に広めたいと、日本一周マラソンを決意。今年3月に県庁を早期退職し、5月5日のスタートとなりました。
(以下、甲斐さんのお話より)
日本における子ども虐待防止の政策が遅れている原因は、法律の問題が大きい。
現在の法律は議員立法による急場しのぎの法律であり、現状に合う形に変えていかなければならない。児童相談所には強制権限が与えられているものの、現場の声が届かない仕組みになってしまっている。問題は児童相談所職員ひとり一人の資質ではなく、仕組みにある。
20年前に全国で報告された児童虐待の事例は約1,100件、平成24年では約67,000件であるが、氷山の一角に過ぎないと捉えて欲しい、児童相談所でも気付かないことも多くあるはず。
現実はもっと多くの虐待があり、報告件数が増えるということは見つけられている事例が増えてきていると捉えるべき。
一般住民から、「子どもの泣き方がひどい」と通報があったとしても、しつけだと言われれば虐待と判断することは難しく、死に至るほどひどいものだけが虐待とされてしまう危険がある。
日本一周マラソンを続ける中で、東北地方に入ってから被災地の子どもの虐待の増加率が高いと感じている。子どもたちの問題行動(非行など)が増えており、専門家が入っているものの充分ではない状況が続いている。
震災当時「いい子」でいた子どもこそ、2年半経ってストレスが噴出してきている。
日本における性的虐待も大きな問題である。
報告件数としては67,000件のうち1%くらいであるため、日本では性的虐待がないのではないかとされることも多いが、目に見えていないだけである。
身体的虐待やネグレクトは周囲に発見されやすいが、性的虐待、心理的虐待は見つけられにくいものである。
性的虐待は子ども自身が言い出さないことが多く、過去には、祖父から性的虐待を受けた子どもが言い出しても聞いた大人が信じなかった(そんなことがあるはずがないと思い込んだ)事例もあった。
虐待を受けている子どもたちは周囲にサインを出していることが多く、一番見えやすいこととして非行があげられる。
虐待されることで持ってしまったトラウマを自分の中で処理することができず、性的虐待を受けた子どもは、性的な非行である売春や援助交際に走ることも多い。
虐待された子どもは、受けた虐待を再現する傾向があると言われている。暴力を受けて育った子どもは、暴力で引っ張っていくようなことを「安心すること」と捉えるからである。
そして、虐待を受けた子どもは大人になって加害者になる可能性が高い。
虐待が繰り返されてしまうのである。
また、非行・うつ病・摂食障害・精神的不安定・不登校・暴力・依存などの問題は、根本的な原因が虐待にあるとしても、例えば医療の現場では、症状を治療することは行われても虐待までケアすることができない場合が多い。
虐待を起こさないために、育児支援や親へのケアが必要である。加害者のケアや根本的な治療、育児支援(経済的な支援)。
虐待を受けた子どもにとって大切なことは、特定の人間と信頼関係を結ぶことである(愛着形成)。
被害者である子どもにとって一番いいことは、加害者が排除されることである。
日本では、被害者である子どもが加害者である親から引き離され施設に入所したとしても、被害者・加害者に十分なケアが施されないまま戻される場合も多い。そして同じことを繰り返す。
アメリカでは、加害者である親が裁判にかけられ、治療プログラムによって治療される。
被害者である子どもは児童養護施設ではなく里親にあずけられる→信頼関係。
日本では被害者である子どもの回復プログラムが保証されておらず、子どもから話を聞きとる制度も確立されていない。
まずは、育児に主に携わる母親を満たすことが大切。
父親の積極的な育児参加には、大いに期待している(イクメンの皆さんに期待している)。
虐待を防ぐため、「予防」が必要である。
「相談に来てください」と呼びかけても、本当に必要な人が来られないことが当たり前のことだと考え、支援する側が出向いて状況を把握することが需要である。